往来物手習い

むかし寺子屋では師匠が書簡などを元に往来物とよばれる教科書をつくっていました。
寺子屋塾&プロジェクト・井上淳之典の日常と学びのプロセスを坦々と綴ります。


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高橋悠治さんから学んだこと


6時13分起床 雨 オグリ散歩はお休み

昨日の日記の最後に紹介したのは、
高橋悠治さんが1976年にポリドールに録音した
"YUJI PLAYS BACH"のCDでしたが(ジャケットの写真が若い!)
そのアルバムには、ライナーノートとして
「編曲について」と題された悠治さんの文章が収められています。

昨日の日記で紹介した私の文章の元ネタをばらすようですが、
その悠治さんの文章から一部分を抜粋して再構成し、
以下に紹介します。

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 音楽はいま、ここにひびくものであり、死人がのこしたインクのしみではない。だから、他人の作品を自分用につくりかえるのは、他人の音楽を引用記号でかこむことで、これは演奏の根本的な態度であり、編曲はそのための一つのやり方と言える。また、編曲やかきなおしは音楽をならうためのいちばんたしかな方法でもある。梨の味は食べてみなければわからない。あるがままの音楽をみるだけでは、音楽のことはわからない。
 演奏家ときき手の結びつきも忘れてはならない。演奏家がそれぞれの音と感じ方をもつ人格であり、演奏技術が機械でもまにあうようなできあいの手つづきでないとすれば、きき手も闇の中で耳をそばだてる顔のない動物ではなく、同じ音楽の光の輪の中にいる友人たちなのだ。
 バッハはすぐれた編曲者だった。当時の作曲家の作品をかきうつすことからはじめ、ヴィヴァルディを鍵盤用にかきなおすことなどによって音楽をならったのだろう。自分の作品も機会に応じて何回もかたちを変える。「マタイ受難曲」の半分は前にかいたもののかきなおしだといわれる。その中心をなすコラールは、レオ・ハスラーのかいたものをかえてつかったのだ。それらのかきなおしは、ある曲をちがう楽器にうつすだけではなかった。その楽器をうけもつ演奏家のひとりひとりを予想し、それをきくひとたちのこともかんがえあわせて、ディテールがきめられる。フレーズのくぎりも、強弱もかきこまれていない楽譜は実際には大変精密であり、しかも最終的なかたちではない。それはやがてだれかの手がくわえられ、ふたたび姿をかえて生きのびることをもとめている。
 作曲とは、すでにあるひびきを一般化し、違うものにかえてゆく工作ではないだろうか。編曲はこの手つづきを何倍にもふやす。編曲されることを予想する作曲は、できるだけ簡単なかたちでかきとめなければならない。作曲家がすべてのデティールをうずめて編曲のたのしみをうばうことはゆるされない。余白の部分にいちばんうつくしいディテールがだれかの手でつけたされる。音楽はそれをつかうみんなのものだ。(1976年7月)
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私は、18歳という、いわばもっとも多感な時期に
高橋悠治さんという人と出会えたことで、
「今の時代をどう生きるべきか」ということについて、
どんなに多くのヒントや指針を頂いたかわかりません。

たとえば、次のようなことなどがそうです。

人間は社会のさまざまな制度の中で押しつぶされている。
そこには2つの生き方があり、
それは体制に「順応する」生き方と、「外れていく」生き方である。

「順応する」生き方は、この世的には恵まれて
最初は良いかもしれないけれど、
そのうち順応に疲れ、だんだん苦しくなって、
「気がついてみればリストラされていた」ということもありえる。

一方の「外れていく」生き方は、
この世的にはさほど恵まれないが、生き方としては自然で楽である。

ただし、世の中の中心から周辺の方に押しやられる運命にあって、
あまり外れすぎると「使いものにならない人」として、
本当にスポイルされてしまう。

だから、「順応する」のでもなく、
かと言って「外れすぎる」のでもなく、
その周辺でバランスを取りながら生きていくのが、
いまの社会に対する一つの抵抗のあり方である。

・・・というようなことを私は彼から学んだと思っています。

また、今の私は音楽が本業ではないのですが、
それでも私が今やっていることは、
悠治さんが音楽を通じてされていることを、
別のフィールドでやっているようなところがあるのではないかと。

30年前に悠治さんが書いた文章をこうしてタイプしてみて、
そんなことを思いました。

posted by 23:19comments(0)trackbacks(0)pookmark


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