往来物手習い

むかし寺子屋では師匠が書簡などを元に往来物とよばれる教科書をつくっていました。
寺子屋塾&プロジェクト・井上淳之典の日常と学びのプロセスを坦々と綴ります。


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亡き父の誕生日に想う

昨日2/5は長男17歳の誕生日でしたが、今日2/6は16年前に亡くなった私の父の誕生日です。父は長男が生まれてすぐ、1歳のときに亡くなったため、長男は自分の祖父にあたる父のことを覚えていませんが、父は自分と一日違いの日に孫が生まれたことをとても喜んでいました。

父の父、つまり父方の祖父は歌舞伎役者、いわゆる旅芸人でした。私の父が小学5年生の時に祖父は亡くなっているので、当然私は写真でしか祖父を見たことがありません。父は昭和6年生まれでしたが、その年代の人にしては珍しくギターやアコーディオンを演奏する音楽好きな人だったのは、おそらくは芸人であった祖父の血を引き継いだからでしょう。また、一時期は音楽家になりたいとまで思ってしまうほど音楽にめり込んでしまった私も、その流れにあると言えるかもしれません。音楽が縁で知り合った妻もいま音楽を仕事にしていますし、先般もご紹介したように、義弟(妻の妹の連れ合い)は和太鼓集団爐泙鵑泙觝足瓩虜堕垢鬚靴討い董∈覆遼紊皺山擇鮖纏にしている人ですから、そうした人たちとのご縁も、もとをたどれば父方の祖父に行き着くように思うのです。

ところで、「歌舞伎(かぶき)」という言葉の語源は「傾く(かたむく→かぶく)」で、どっちかに偏って真っすぐではないさまのことです。そこから転じて、人生を斜(しゃ)に構えた人、身なりや言動が風変わりな人やアウトロー的な人などを「かぶきもの」と呼んだわけです。つまり、「かぶき」とは、「かぶく人たちのかぶく芸」のことで、「歌舞伎」という漢字は、後から国語学者が充てたものです。「歌舞」は、文字通り歌と舞であり、「伎」は演技、技術の技と同義なのですが、伎ひと文字で役者を意味するそうなので、歌舞伎とはまさに、「歌と舞踊と俳優で作るエンターテインメント」ということになり、当て字とはいえお見事ですね。

いま私は芸事を職業としているわけではありませんが、教育という全く違ったフィールドで仕事をしながらも、それでも、10代の中頃からさまざまなアートに触れてきたことの影響を感じることがしばしばです。進学塾専任講師という企業人の仕事から始まりながら、非営利活動に関心をもち、「教えない教育」というオーソドックスなやり方とは言えないスタイルに変化していった経緯を振りかえると、おそらくその根底には、「かぶきもの」と呼べる精神が横たわっているのでしょう。

それは、間違いなく祖父、父から引き継いだものであるし、肉体としての祖父や父は死んでしまっているのですが、今もなお私の中で生きているように思います。妻も私も長男、次男には音楽をやるよう積極的に奨めたわけではないのですが、長男は小学校6年のときに自分から太鼓をやると言い始め、先だって太鼓を始めた次男も1/22デビューステージを果たしました。

そして、つい先般、今更のように思い出して大変驚いたことがあります。私は大学へ行っていませんし、高校も普通科でしたから、25歳で教育の仕事に関わるようになったのは、ほんとうに偶然のことで、成り行きまかせの結果と私自身も長い間思っていました。でも、もしかすると、そうではないんじゃないかと考えを改めなければいけないような父の言葉を思い出したのです。それは、歌舞伎役者だった祖父のつれあい、つまり私の祖母にあたる人は、名古屋第一高等女学校の師範科(いまの菊里高校)をでて先生の仕事をしていたことがあり、駆け落ちをして一緒になったんだ、と。

祖母がいったいどんな場所で、何を教えていたのか、どんな先生だったのかまでは聞かされておらず、父が亡くなってしまった今、それを確かめることは叶わないのですが、いま自分がしていること、自分が選んでいると思っていることであっても、それは実は、先祖代々の人々想い、いや別段血が繋がっていなくとも、広い意味でいうなら、亡くなった多くの先人たちの想いが今も脈々と生きていて、そうした想いが自分にそうさせているんじゃないか、と。

人間は今自分が生きているうちに、こうしたい、ああしたい、自分の目の黒いうちに何とかしなければ・・・という風に考えがちなのですが、そんなに気張る必要はなく、今思っていることが、たとえ自分が生きている間に実現することはなくても、後世のだれかがいつか形にしてくれるかもしれない。とすると、何をしているか、何をしたか、ではなく、日々何を思い、どう生きているかの方が大事なのかな、と。そうした脈々とした一人ひとりの想いの連なりというものが、人間の歴史なのかもしれない・・・亡き父の誕生日をきっかけにそんな事を思ったんですが、いかがでしょうか。
posted by Akinosuke Inoue 12:30 |-|-|pookmark