往来物手習い

むかし寺子屋では師匠が書簡などを元に往来物とよばれる教科書をつくっていました。
寺子屋塾&プロジェクト・井上淳之典の日常と学びのプロセスを坦々と綴ります。


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団まりな『性と進化の秘密 思考する細胞たち』より

性と進化の秘密

 


雄は作られた性
脊椎動物の元祖的存在のサカナでは、事情が少し違っています。種類によって、水槽の中に雌ばかりがいると、その中で、一番大きい魚が雄になったり、その逆のことも起こります。サカナは、ヒトのように発生過程で片方の生殖器官を消さないで、両方ともきちんと作り上げます。その上で状況を見て、「あれオスがいないぞ、じゃわたしがオスになるか」というので雌の器官のスイッチを消して雄になったり、また元に戻ったりするのです。そういうことが自在にできます。人間もそうなっていたら、日本人の男女比はどこに落ち着くだろうかと思うことが時々あります。

でも、人間を含めた大部分の脊椎動物は、後戻りができないようになっています。片方に専門化することによって、その片方により上手になることができます。ぐらぐらする仕方が少なくてすみます。つくりあげていく途中はともかく、できてしまえばヒトの性はもううごきません。

先ほどチラと触れましたが、脳のつくりも男女で少しだけ違いがあります。女としての個体を運営していく脳と、男としての個体を運営していく脳がまったく同じでは、困るからです。平均的には、男が女に引かれ、女が男に引かれるようでないと、生殖の機能が果たせません。しかし、その脳と身体がかもし出す、人間の資質としての女らしさ、男らしさとなると、大きな個体差が生じます。胎児の時代に受けた男性・女性ホルモンの割合やレベルの違い、母親の身体の状態、胎児と母親の個性、両者のずれの幅など、さまざまな要因が複合的にはたらくからです。まして、社会的な人間の女っぽさ、男っぽさとなると、個人差の上に社会的バイアスが加わって、何が本当かわからなくなってしまいます。人間の性のこの柔軟性が、さまざまなバリエーションを楽しむといったポジティブな方向にではなく、男女差別などのネガティブな方向に利用されていることは、浅ましく、悲しいことです。

最近の世情をつらつらながめていると、男の力の弱り方がとみに目につきます。「女は度胸、男は愛嬌」は、もはや冗談とはいえません。もちろん女も弱ってはいます。わたしの周囲の人を見渡しただけでも、子どもを産むことが昔に比べてはるかに大仕事になっています。しかし、男力の低下は女力の低下に比べて、はるかに多面的、かつ重度であるように見えます。

このことを意識するたびに、その原因の深いところに、男の性が作られたものであることがはたらいているのではないか、と考えさせられます。女がどっしりと足を地につけて生きているのに対し、男にはどこかふわふわとした不安定感があり、社会的な影響を受けやすいように見えるのは、男の身体が女の身体に上乗せしたものであり、足が地面にとどきにくいからではないのか。男の性転換願望が深く肉体的であるのに対し、女のそれは男装であり、社会的な色合いが濃いのも、同じ原因なのではないか。

私自身も若い頃は、さまざまな女性差別を感じるたびに、どうして女に生まれついてしまったのか、と悔しい思いを何度もしました。でも最近は全くちがいます。日本社会の混乱と堕落や世界規模の行き詰まりを目の当たりにするにつけ、一生を男社会のメカニズムから体よくはじき出されて暮らしてきたことで、少なくともズブには加害者側に立たないですんだ。女を踏みつけにした上で、爐罎蠅ごから墓場まで畆蠍く保護される、そんな性の側に加担しないですんで、本当に助かった、という安堵をおぼえます。

この状況を打開するためには、すでに手遅れかもしれませんが、男が自分の弱さを認識しなければなりません。男は強くて有能であり、女は社会的能力が低く、けがらわしく、自分たちが支配してやらなければロクな知性も持てないものだ、などと虚勢をはらず、自己欺瞞を止めることです。自分の脆弱さを率直に受け入れ、女の力を計算に入れ、両者で協力し合っていくことです。その入口を導いてくれる手本は、海外に山ほどあります。女の力を理解できない社会という意味では、日本は世界屈指の位置につけているといえるでしょう。

目覚めよ、男たち!
真の協力者は、あなたの傍らにあるのです。


団まりな『性と進化の秘密 思考する細胞たち』(角川文庫)第5章 身体ができる、そして雄と雌 より

posted by Akinosuke Inoue 12:52comments(0)trackbacks(0)pookmark


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