往来物手習い

むかし寺子屋では師匠が書簡などを元に往来物とよばれる教科書をつくっていました。
寺子屋塾&プロジェクト・井上淳之典の日常と学びのプロセスを坦々と綴ります。


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吉本隆明『全南島論』

全南島論

 


 


火の神信仰とか、家の世代的遡行から出てくる、たかだか親族における共同性にしかすぎない祭りの本質を追求してゆく中に、農耕民族、あるいは農耕神話起源以前における古形が、〈本土〉においても〈南島〉においてもあからさまに存在しているのだと考えられます。こういう問題は、やがて調査、発掘の進展とともに明らかになっていくでしょう。そして、それによって、天皇制統一国家に対して、それよりも古形を保存している風俗、習慣、あるいは〈威力〉継承の仕方があるという意味で、〈南島〉の問題が重要さを増してくるだけでなく、それ以前の古形、つまり弥生式国家、あるいは天皇制統一国家を根柢的に疎外してしまうような問題の根拠を発見できるかどうか、それはまさに今後の追求にかかっているのです。/そういう問題のはらんでいる重さが開拓されたところで、本格的な意味で琉球、沖縄の問題が問われることになるだろうとおもいます。こんなことをいっている間にも、さまざまな政治的課題が起こりつつあるわけですが、起こりつつある問題の解決の中に根柢的な掘り下げ、あるいは根底的な方向性が存在しないかぎり、依然として最初の問題は解決されないだろうと信じます。それなしには、〈南島〉の問題は、たんに地域的辺境の問題として軽くあしらわれるにすぎないでしょう。つまり、現在の問題に限っても、日本の資本制社会の下積みのところで、末梢的な役割を果すにすぎないという次元で、琉球、沖縄の問題はいなされてしまうことは確実です。現在の政治的な体制と反体制のせめぎあいのゆきつくところは、いまのままでは、たかだか辺境の領土と種族の帰属の問題にすぎなくなることは、まったく明瞭だとおもいます。(200-201頁)

吉本隆明『全南島論』(作品社)第II部に収録されている「南島論――家族・親族・国家の論理(1970年9月の講演)」より引用。


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『全南島論』目次:

まえがき
I
南島論序説
『琉球弧の喚起力と南島論』覚書
南島論I・II
II
島はみんな幻
母制論
起源論
異族の論理
国家と宗教のあいだ
宗教としての天皇制
南島論――家族・親族・国家の論理
「世界−民族−国家」空間と沖縄
南島の継承祭儀について――〈沖縄〉と〈日本〉の根底を結ぶもの
家族・親族・共同体・国家――日本〜南島〜アジア視点からの考察
『記』『紀』歌謡と『おもろ』歌謡――何が原形か
色の重層
縦断する「白」
共同幻想の時間と空間――柳田国男の周辺
共同体の起源についての註
おもろさうしとユーカラ
イザイホーの象徴について
島尾敏雄『琉球弧の視点から』
島尾敏雄――遠近法
聖と俗
III
鬼伝承〔島尾敏雄〕
民話・時間・南島〔大山麟五郎〕
歌謡の発生をめぐって〔藤井貞和〕
母型論と大洋論〔山本哲士・高橋順一〕
南島歌謡研究の方法と可能性〔玉城政美〕
あとがき
初出掲載
解説 〔安藤礼二〕

 



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『共同幻想論』(1968年)を書きあげた吉本隆明にとって、そこで提出された諸主題をあらためて総括し、その彼方へと抜け出そうと意図された書物が「南島論」であった。吉本は、繰り返し「南島論」に立ち戻り、新たな構想のもとで「南島論」を何度も書き進め、書き直そうとしていた。しかしながら、自身の思索の深まりとともに「南島論」として一つに総合されなければならない論点は限りなく広がり、限りなく複雑化してゆく。結局のところ、吉本の生前、「南島論」というタイトルで一冊の書物がまとめられることはなかった。「南島論」は、詩人であり批評家であった吉本隆明が、そのすべての力を注ぎ込みながら――それ故に――「幻」となった書物であった。
だが、来たるべき「南島論」の完成のために吉本が残したすべての論考、すべての対話が、吉本自身の手になる「まえがき」と「あとがき」(いずれも2005年執筆)を付し、『全南島論』として刊行されることになったのである。「幻」の書物は、「幻」のまま終わることはなかった。吉本隆明によって南島は、人間の表現の「原型」、さらには、人間の家族・親族・国家の「起源」を探ることが可能な場所であった。それは同時に自らの詩人としての起源、批評家としての起源が立ち現われてくる場所でもあった。本書『全南島論』は、吉本隆明の表現の「原型」、表現の「起源」を明らかにしてくれる特権的な書物になった。一冊の書物のなかに、文字通り、一つの宇宙が封じ込められているのだ。詩人にして批評家、吉本隆明のアルファでありオメガである。(安藤礼二氏による解説より)
COMMENT:安藤礼二さんの解説文にもあるように、この本は、吉本さんの没後まとめられた『共同幻想論』その後の総括とも言うべき集大成で、いずれは購入するつもりですが、5,400円もする高い本なので、ちょっと中身を見てみたいとおもい図書館で借りてみました。

 

 

posted by Akinosuke Inoue 23:47comments(0)trackbacks(0)pookmark


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